金縛り

 六畳一間のアパートで一人暮らしをしている時、真夜中に目が覚めました。何だかぼうとして気分がすぐれません。枕元の時計で時間を確認しようとしましたが、何故か手が届きません。いや、手が届かないのではありません。動かないのでした。ピクリともしません。意識を集中して、力いっぱい手を上げようとしますが、両手とも全く動きません。手だけではなく、足も体も、まるで大人数で押さえつけられているように動かないのです。
 目を開いてみると天井からぶら下がった照明が揺れているようですが、夢を見ているとは思えません。よく足が異様に重くて歩くことができない夢を見ることはありましたが、それとはだいぶ違った感じです。実際、幽霊がいて、私の体を縛っているのかもしれないと本気で思いました。密教で「金縛法」というのがあるそうですが、そういった術にかけられてしまったのかとも思いました。
 現在では、金縛りの起こるメカニズムはある程度分かっており、人工的に作り出すことも可能だそうです。しかし、もしも部屋に憑りついている成仏していない霊の仕業だと言われれば、私は心霊体験をしたと信じていたと思います。事実として、幽霊が私の体を押さえ付けているとしても、「金縛り」という生理現象だとしても、体が動かないという点では差異はありません。
 金縛りになりやすい体質の人がいる一方で、全く金縛りにはならない人もいます。一般に、心霊体験をする人は霊体質と言われますが、心霊体験の少なくとも一部は金縛りのようなものではないでしょうか。金縛りを他人が再現できないように、大方の心霊体験も他人が再現しようとしてもお約束のように失敗します(まあ、再現できないからといって嘘ということにはなりませんが)。

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